美しいフィヨルドに囲まれた、犬より人が少ないとも言われる世界最大の島、グリーンランド。2025年5月5日、トランプ米大統領はNBCニュースのインタビューで「グリーンランドを強く必要としている」と語り、同島の買収を政府に申し出ています。我々は今回、世界の果てにありながら、今世界で注目されているグリーンランドを調査に行きました。グリーンランドに割り当てられているccTLD(国別コードトップレベルドメイン)は、「.gl」です。
◆グリーンランドはどこにあるのか?
グリーンランドはデンマーク王国に属する自治領で、世界最大の島です。北極圏に大部分が位置し、そのほとんどを氷床が覆っています。最大の町は「ヌーク」で、世界で最も人口の少ない首都の一つ。この地では、夏には太陽が沈まない白夜が続き、冬には太陽が昇らない極夜の季節を迎えます。こうした長期間の暗闇を含む厳しい自然環境や、社会的・歴史的背景が複雑に影響し、グリーンランドは自殺率が極めて高い水準にある地域として研究や議論の対象となっています。グリーンランドの総面積は約216万㎢と世界最大の島で、人口は約5万6千人。使用されている通貨はDKK(※約21円)。公用語はグリーンランド語(カラリット語)とデンマーク語。日本との時差は-11時間です。
※2025年7月時点
= 目次 =
◆夏でも極寒ヌークのカラフルな街並み
◆赤ちゃんのミイラや日本の文献が眠る国立博物館
◆来日公演を経験したバンドマンが営むグリーンランド唯一のレコード店
◆壮大な“氷山の眺め”が日常の街イルリサット
◆島にひとつだけの蛇口にみんな水を汲みに来る40人の集落オカートスト
◆ジャコウウシのステーキが味わえる「イヌイットカフェ」
◆街で見かけた.glドメイン
◆現地SIM速度調査
◆夏でも極寒ヌークのカラフルな街並み
グリーンランドに向かうため、ドメイン探検隊が乗り込んだのはエア・グリーンランド。コペンハーゲンからヌークへと向かう直行便です。この路線は、悪天候による遅延が多いことでも知られていますが、今回は幸運にも時間通りに出発。
しかし、ヌーク空港到着間際、機体が強風に煽られて最初の着陸は失敗。2度目のチャレンジで無事着陸できたときには、機内から自然と拍手と歓声が湧き起こったほどです。飛行機を降りると徒歩移動50メートル。たたきつける氷粒に、びしょ濡れ&震えながら、北の大地の洗礼を全身で受けることになりました。早速、タクシーでホテルへ向かいます。
宿泊先のHHE Expressに到着。清潔感のあるビジネスホテル風の建物で、部屋の窓から見えるヌークの街並みはカラフルで可愛らしいです。
ホテル正面は日本ではなかなか見ない、白い十字架が平地に無造作に刺さっている墓地でした。
タクシーで街を見て回ることにします。運転手のアロンさんいわく「ヌークは小さい町だから、全部歩いて回れるよ。でももちろん案内するさ」と対応してくれました。
最初に案内されたのは、使われなくなった新しい小学校のヌーク・スクール(Nuuk School)。現地語ではアトゥアルフィク・イヌッスック(Atuarfik Inussuk)と呼ばれます。一見モダンで立派な校舎ですが、避難経路が建築基準を満たしていないとのことで、使用不可とのこと。
市役所・庁舎です。行政関連の建物としては珍しく新旧2棟が並び立つ堂々たる建物。グリーンランドの雇用の約40%は行政が担っているそうです。アロンさんいわく、グリーンランドの首相はボディーガードをつけておらず、この建物にも警備員はいない、それくらい平和とのことです。
次はお医者さんの家。現地の病院は黄色の家だそうです。昔、グリーンランドの建物は赤が学校、黒が警察、黄色が病院など、用途で色分けされていましたが、今はほぼ自由とのこと。
その近くにあったのはカヤック工房。ひとりひとりの体型に合わせてカヤックを手作りしていました。
そして現れたのは、クジラの油を精錬する設備。かつてはここで捕れたクジラの脂を火に使うために加工していました。まだ電気がなかった時代、鯨の油は光を灯す貴重なエネルギー資源。それがグリーンランドの大きな産業であり、そうした富と価値が、デンマークがこの地に注目した理由のひとつでした。
ヌークの人々の生活の中心ともいえるショッピングモール「ヌークセンター」。野菜、日用品、お土産、精肉など、豊富な品揃えです。ネット情報によると「アザラシの肉もある」とのことでしたが、探し回っても、ついに見つけられず。現地の人に聞いてみてもないとのことでした。
ヌークの港を見下ろす岩山の上に立つのは、18世紀にグリーンランドへ渡った宣教師ハンス・エーエデの像。街の起点を築いた人物として知られる一方で、植民地支配の象徴として議論の的にもなってきました。ここは、グリーンランドが歩んできた歴史の複雑さを静かに物語る場所とも言われています。
◆赤ちゃんのミイラや日本の文献が眠る国立博物館
街の中心にあるのが、グリーンランド国立博物館。ここでは、イヌイットの昔の生活様式や、道具、衣服、儀式などが丁寧に展示されています。入館料は大人100DKK(約2,100円)。
昔使われていた犬ぞり。犬ぞりはグリーンランドの人々にとって非常に大事な交通手段でした。
動物の皮で作る暖かそうな衣服。右はホッキョクグマの皮で作られています。
中でも最も有名なのが、1475年頃に埋葬されたミイラたち。 冷たい大地によって自然に保存された赤ちゃんを含む4体のミイラは、訪れる人々の足を止める圧巻の展示でした。
なんと日本語の展示物を発見。グリーンランドが日本の文献に初めて登場した際の記録が紹介されていました。その記録の名前は「Yochi Shiraku(輿地誌略)」、まさかグリーンランドで日本とのつながりに出会えるとは!
19世紀中盤の日本では、グリーンランドはカナダに隣接した土地として認識されていたようです。
画面奥に見える険しい山容は、セルミツィアク山(Sermitsiaq)周辺の景観を想起させ、海に浮かぶ氷山はイルリサット・アイスフィヨルド系の典型的なモチーフ。この組み合わせは、20世紀初頭のデンマーク人・グリーンランド在住画家が好んで描いた構図です。
館内に並ぶ木彫の仮面は、かつてイヌイットの儀礼や物語の中で用いられてきたもの。誇張された表情は恐怖や滑稽さを帯びながら、精霊や異界との交信を象徴しています。ここでは、装飾ではなく「信仰としての顔」が展示されています。
◆来日公演を経験したバンドマンが営むグリーンランド唯一のレコード店
タクシー運転手のアロンさんと別れて、ここからは徒歩での散策です。ヌークセンターの横に家族経営の小さなレコード屋さん『Atlantic Music ApS』 https://atlanticmusicshop.gl を発見。現在のオーナーは、創業者の息子さんで、グリーンランド唯一のレコード店です。
話を聞いてみると、彼は現地の人気バンド「Nanook 」のメンバーの一人!兄弟で活動しているこのバンドは、グリーンランド語で歌う数少ないアーティストとして広く知られており、日本でもライブをしたことがあるそうです。2026年2月に東京でライブが予定されているとも教えてくれました。
店内は楽器や音楽に関する機材等で溢れています。
エフェクターも充実した品揃え。
夕食はAtlantic Musicの裏手にあるフィリピン人の方が営むアジアン料理店『Bubble tea house』へ。桜のように見える花は、もちろんフェイクフラワーです。極寒のグリーンランドで桜を見ながらアジア料理を頂くというのはなかなかできない経験ですね。
メニューは酢豚、寿司、エビの天ぷらなど。
Japanese Super Family Box 、399DKK (約8,380円)を注文。暖房の効いた店内で食べるお寿司はすべてにマヨネーズが効いています。温かいフィリピンから北の大地に来た店員さんたちがとてもフレンドリーなお店でした。
◆壮大な“氷山の眺め”が日常の街イルリサット
首都ヌークから次の目的地、グリーンランド西岸ディスコ湾に面する人口約4,500人の街、イルリサット(Ilulissat)へ。住民は“氷山の眺め”が日常です。移動手段はプロペラのついた27人乗りの小型機。
機内からコックピットも丸見えで、仕切りはカーテンのみです。
およそ1時間半で可愛らしいピンク色の文字で彩られているイルリサット空港に到着。
空港からは無料の出迎えミニバスに乗ってホテルへ行きます。イルリサットで宿泊したホテルはHOTEL SØMA Ilulissatと、そこから5分ほどのHotel Arctic。山側にあるHOTEL SØMA Ilulissathは想像以上に広々として快適で、ゆったりとしていました。
窓の外には、雪ぞり犬たちが鎖に繋がれている姿が見えます。彼らは夏の間、あまり食事を与えられず、チェーンで縛られたままやせ細るそうです。それは、冬の作業期にたくさん食べて筋肉をつけるため、夏はあえて贅肉をつけさせない飼い方なのだとか。ずっと鎖につながれている姿を見ると切ない気持ちになりました。
また、現地の犬はペットのように触れてはいけないとされています。人懐っこい性格ではなく、仕事のパートナーとして厳しく育てられており、日本的な「室内犬」「家族同然のペット」は 少数派です。
Hotel Arctiでは、部屋によってイルリサットの街を見下ろすことも、
海側に広がる氷河と建物がひとつの風景として重なる眺めを楽しむこともできます。自然と人の暮らしがここまで近接する景色に出会える場所は、世界的にも希少でしょう。
◆島にひとつだけある蛇口にみんな水を汲みに来る40人の集落オカートスト
次の目的地はオカートスト(Oqaatsut)。イルリサットから北へ約15kmにある人口約40人の小さな集落です。小型ボートで向かいます。
出港です。海上には”動く氷の彫刻たち”とも言うべき風景が目の前に広がります。
イルリサットの港から船で眺めた海上の氷は、すべて氷河から生まれた「氷山(Iceberg)」。巨大なものから細かな氷片までが混ざり合っています。
数々の壮大な氷山脇を通り小型ボートで30分、いよいよオカートストに到着。まず向かったのは、ローカルレストラン「H8」です。店名は、20世紀にヘリコプターが食材や物資を降ろしていた場所H8に由来しています。
中に入ると洗練された空間に驚かされます。外の静けさとは対照的に、おしゃれで温かみのある雰囲気。
ランチメニューはひとつのみで695 DKK(約14,600円:時期により変動)、コールドスモークされた2種の魚と2種の肉の盛り合わせ。皿の左上にはエゾシカ、右上にはラム肉、左下はオヒョウ、右下はタラ、そして中央にはディスコ湾で獲れたエビが並びます。
どれも素材の風味が生きていて、パン、ハーバルティーと一緒に美味しくいただきました。店員のお姉さんは一年のうち、夏の4ヶ月しかこの街にいないとのこと。
食後は集落を散策。村にレストランは2軒あり、そのうちのひとつにはホテルも併設されています。観光客が日々出入りするものの、とても静かで穏やかです。
ここにも犬ぞりを引く犬たちがいました。冬になると犬ぞりは今でも貴重な移動手段になるそうです。
ここは、オカートストに一つしかない水の供給源。村には水道はなく、海水を淡水化して供給されています。オカートストにひとつだけある蛇口からみんな水を汲みに来るという、過酷でシンプルな生活スタイル。レストランのトイレもまた独特で、水を使わない簡易トイレでした。
放置されていたジャコウウシの頭の残骸。
港で見かけた、この赤い三角形のもの。何だかわかりますか?これは、船のための航路標識(デイマーク)です。「ここが航路の目印」「岩礁に近い」「港の入口」を視覚的に示しています。日本の灯台ほど大げさではありませんが、氷や岩が多いグリーンランドでは非常に重要な安全設備です。
オカートストにひとつだけあるスーパー「Pilersuisoq」を訪れました。ここが唯一の食料・日用品の調達スポットになります。営業は週5日半、1日の営業時間は平均して8時間ほど。
日清のカップヌードルがおいてありました。日本では見ないカップ蕎麦も!値段は22.95DKK(約532円)。
オカートストにひとつだけある郵便局は、スーパーと併設されています。せっかくなので記念にポストカードを書いて送ろうとしたのですが、「届くのには時間がかかるよ」と、そっけない対応。しつこくお願いするのも申し訳ないので諦めました。
また、オカートストには小さなコンサートスペースもあり、年に3回ほど、ここで音楽フェスティバルが開催されるそうです。壮大な氷河に魅せられた世界中のアーティストがここに集まるのでしょうか。ヌークのレコード店で出会ったバンド「Nanook」も、このステージに立ったことがあるかもしれません。
オカートストの主要産業は、漁業です。かつてこの村には魚の加工工場がありましたが、のちにイルリサットへと移転。それでも村の人々は、地元に根ざした生活を守るべく、新たな会社を立ち上げ、加工業を続けています。17世紀から使われていたという、捕らえた鯨を陸へと引き上げるために使われた装置が、かつてこの地が鯨狩りの要だった名残として今も静かに佇んでいました。
オカートストから海路で戻る途中、ザトウクジラの親子に遭遇。寄り添うように仲良く泳ぐ姿が雄大で、思わず息をのみました。
◆ジャコウウシのステーキが味わえる「イヌイットカフェ」
イルリサットに戻り、その名も「イヌイットカフェ」へ。
メニューにあったのは、貴重なジャコウウシのステーキ、285DDK(約6,605円)。ジャコウジカといえば、香水に使われることで知られる麝香(じゃこう)の原料です。香りを期待して一口。野性味がありながらも柔らかく、後味にふわっと香りが残るのが印象的でした。
こちらはクジラのステーキ、285DKK(約6,605円)。かなり素材の味が前面に出ており、味付けはごくシンプル。少し臭みがあるため、好みが分かれるかもしれません。
トランプ米大統領は「グリーンランドには大きな可能性があり、デンマーク政府はそれを十分に活用していない」と発言していますが、現地を訪れると、資源、地理的条件、社会構造の面で、そうした見方が生まれる背景を理解できる点も見受けられました。グリーンランドには、国際的には十分に認知されていない側面や特性が多く残されています。
◆街で見かけた.glドメイン
「.gl」はかつてGoogleの公式サービスにも使われていました。2010年、Googleは短縮URLサービス「goo.gl」を開始。長いURLをコンパクトに変換するサービスは大変便利で、世界中で広く使われましたが2018年に終了。以下は実際にグリーンランドの街で見かけた.glドメインです。
ヌークに拠点を置く建設・工務会社のAK Byggeteknik ApS。
ヌークにあるタクシー会社「Nuuk Taxi A/S (363636)」。名前の番号(363636)は同社の電話番号にもなっています。
ドメイン探検隊も訪問したグリーンランド唯一のレコード店「Atlantic Music ApS」。ちなみに「ApS」(Anpartsselskab、アンパートス・セルスカブ)とは、日本の「株式会社」よりも「合同会社(LLC)」に近い有限責任会社を表します。
建設・土木工事に関わる総合業務を展開する企業、KJ Greenland A/S。「A/S」はデンマークとグリーンランドにおける、株式会社の法人形態を表します。
◆現地SIM速度調査
グリーンランドで使えるeSIMは、通常ヨーロッパ用とは別に購入する必要があります。ドメイン探検隊が事前に用意していたのは、Airalo、TMI、Sailyの3種類。しかし、いざ現地に到着してみると、TMIとSailyは接続できず。結局、使えたのはAiraloのみ、速度は110Mbpsでした。海外に行く予定のある方は「最強の海外用eSIMはコレだ!海外用Wi-Fiはやめておくべきこれだけの理由」を参考にしてください。
































































